SAKI AI ARTIST← 早紀と死神
夜の駅の階段を歩く早紀と、背後から見つめる死神

早紀と死神 — 第1話

満員電車の
奴隷

見えない視線は、
いつも彼女を追っていた。

物語を読む ↓

01 / PROLOGUE

視線

「え……?」

背中に、ぞくりと冷たいものが走った。

私は反射的に、ミニスカートの裾を押さえた。

誰かに見られている。

そう感じたのだ。

すぐに振り返る。

けれど——

そこには、誰もいなかった。

私の名前は、泉 早紀。

都内で働く、ごく普通のOLだ。

ただ、ひとつだけ。

少し前から、私には悩んでいることがある。

視線だ。

大人になってから、男性の視線にはそれなりに慣れた。

街を歩いていれば、振り返られることもある。電車の中で、不躾な視線を向けられることだってある。

気分のいいものではない。

でも、それとは違う。

この視線だけは、明らかに何かがおかしい。

どこから見られているのか分からない。誰が見ているのかも分からない。

それなのに、確かに感じる。

まるで服など最初から存在しないかのように、身体の奥まで見透かされている——

そんな、生々しい感覚。

振り返っても、誰もいない。周囲を見渡しても、私を見ている人はいない。

それでも、視線だけは消えなかった。

電車の中でも。
会社でも。
帰り道でも。

そして、自分の部屋にいる時でさえ。

いつからだろう。

私は四六時中、“何か”に監視されている。

そんな気がしてならなかった。

自室の鏡の前で、背後の気配を感じる早紀
ILLUSTRATION誰もいないはずの部屋で。

——このときの私は、まだ知らなかった。

その視線の主が、人間ではないことを。

翌朝の満員電車で、早紀の背後に死神が現れる場面

NEXT MORNING

翌朝。
視線は、ついに姿を現した。

02 / STORY

満員電車の車内は、朝の通勤ラッシュ特有の湿った熱気と、人の匂いで満ちていた。

早紀はいつものように吊り革へ片手を伸ばし、押し寄せる人波の中で小さく息を殺していた。

「え……?」

突然、背中に冷たい気配が触れた。

振り返ることも、声を上げることもできない。喉の奥で悲鳴が潰れ、身体だけが凍りついていた。

周囲にはスーツ姿の会社員も、マスクをした学生もいる。けれど、誰一人として早紀の異変に気づかない。

黒いフードの奥から、白い頭蓋骨がゆっくりと顔を寄せる。

死神の姿は、早紀にしか見えていなかった。

骨の腕が、逃げ道を塞ぐように早紀を背後から捕らえる。電車が揺れるたび、冷たい拘束がさらに強くなった。

「……っ」

早紀は目を見開いたまま、死神の顔を見上げた。口を開いても声は出ない。足に力が入らず、ただ手を固く握りしめることしかできなかった。

死神は耳元で、骨だけの顎を動かした。

声はなかった。なのに、その言葉だけは頭の中へはっきりと届いた。

「お前は、もう逃げられない」

周囲の乗客は、目の前の空間が少し狭くなったと感じるだけだった。

誰も、ひとりの女性が異界の存在に捕らえられていることに気づかない。

早紀は涙を浮かべながら、動かない身体に必死で命令した。

逃げて。
声を出して。
誰かに気づいてもらって。

けれど、死神の術は解けない。

電車は次の駅へ向けて、暗いトンネルの中を走り続けていた。

満員電車で死神と向き合う早紀を描いたシリーズ作品

ABOUT THIS WORK

誰も気づかない場所で、
日常は悪夢へ変わる。

見えない視線に悩まされていた早紀。その正体が、逃げ場のない満員電車で初めて姿を現します。日常へ静かに侵入する異界と、周囲に助けを求められない孤独を描いた第一話です。

ARTIST
サキ / SAKI
SERIES
早紀と死神
TYPE
PERSONAL / ART WORK

THE STORY CONTINUES.

翌朝、死神は
再び電車に現れる。

第2話「死神の魔術」へ →
シリーズページへ戻る